アジア各国のCBRの概要
 
アジア・ディスアビリティ・インスティテート 中西由起子

(本稿は、現代書館「福祉労働」2000年夏号「アジアの障害者1 CBR(地域に根ざしたリハビリテーション)」に加筆したものである。)

 アジアの障害者問題を論じるにあたっての基本的な施策として、大半の途上国で実践されているCBR(地域に根ざしたリハビリテーション)を取り上げる。

 CBRとは,地域開発におけるすべての障害者のためのリハビリテーション、機会の均等、社会への統合のための戦略である。障害者自身、家族、地域社会の共同の運動、そして適切な保健、教育、職業、社会サービスによって実施される。まず地域レベルでCBRサ−ビスの受け手が自己の生活上の政策決定に平等に参加する権利を保障しての参加奨励と、村の活性化、村おこしに通じる意識変革がその中心概念となる。

 日本ではCBRが地域リハと混同されている。日本で言う「地域リハ」とは、保健婦、理学療法士、作業療法士等にる訪問型リハビリテーションを指す。脱施設化の流れの中で起こってきた活動ではあるが、中心となるのはあくまでも医療従事者であり、病院をベースとする障害者個人に対する医療リハと変わるところのないトップダウンのアプローチである。

 アジアで初めて実施されたCBRは、インドネシアでILOが始めた雇用中心のプロジェクトである。ソロのリハビリテ−ション・センタ−でまず試みられ、79年からの本格的プロジェクトは予定より延長され1990年に終了した。全国27のリハビリテーション・センタ−を活用し、MRU(移動隊)の創設、公民館等での障害者へ数週間から数ヵ月のミシン縫製、竹細工などの職業訓練、ボランティアの育成などを実施した。この形式は政府により継承され、民間のCBRに対しMRU中心の政府のCBRの形式が出来上がった。民間での代表的なものが、インドネシアのハンドヨ・チャンドラクスマがソロで始めたプロジェクトである。1978年に遠隔地リハビリテ−ションとして始められ、正式には1982年に村落部の取り残されていた成人障害者も対象に開始された。同年には、成功例として名高いフィリピンのバコロッドでもCBRが始まった。

 各国別にCBRをまとめてみた。厳密には上記の定義に合致しないものも含めたが、地域の人々のとの接点をもっていこうとするプロジェクトでは、地域をエンパワ−しようとするCBRの意図にそうためCBRとして論じた。

インド−1985年に県リハビリテーション・センター11カ所が設立され、村では村落リハビリテーション・ワーカーや多目的リハビリテーション助手がCBRを推進した。トップダウン方式あったので、保険部門のみで成果がでている。多くのNGOもアウトリ−チ型CBRを実施している。特に南インドでは保健、教育、訓練、雇用面でのインフラストラクチャーが発達しているため、4州で20以上のCBRプロジェクトが実施されている。

インドネシアーMBU中心の政府のCBRの他に、NGOではYPAC(インドネシア肢体不自由児ケア協会)によるバンドンのCBR、ハンドヨのCBR開発・訓練センタ−よる中部ジャワのCBRが有名である。

韓国ー1992年より国立リハビリテーション・センター病院が訓練した公立保健センターの看護婦等によるソウルなど数地区でのCBRや、巡回リハビリテーション・サービス、障害者登録などを行う160カ所(1998年現在)のCBRセンターでは、医療中心の活動が行われている。CBRの形態に近いのはむしろ297ヵ所の社会福祉館(97年1月現在)である。釜山市の東区社会福祉館の場合は、障害児保育、野外活動、デイケア、在宅訪問など地域に根ざした総合的な活動を行っている。

カンボジアー社会問題・労働・退役軍人問題省全国障害者タスク・フォース(現、障害活動評議会)はCBRの代わりに「障害者との地域を基盤とした事業」の名称を用い始めた。運営主体である10以上のNGOのうち、障害と開発アクション(ADD)やハンディキャップ・インタ−ナショナル(HI)など障害当事者が積極的に参加している質の高いプログラムも多い。

スリランカー国は1983 年に始まったアヌラダプラ郡のCBR、1992年に始まった保健ハイウエ−社会サ−ビス省の地域事務局のCBRを実施。NGOでは1993年に始まったカルタラ郡でのスリランカSHIA協会のCBRなどがあるが、成功例に乏しい。

タイーCBRを実施しているNGOのうち、1986年に最初にCBRを始めたタイ障害児財団では順調にCBRを発展させ、有効なモデルであるとの評判を勝ち得た。シリントン国立医療リハビリテーション・センターはプライマリー・ヘルス・ケア制度を利用して実施したが、トップダウンの方法は効を奏していない。

中国ー公共保健省が中心となった試行プロジェクトに基づき、現在では各市でCBRのネットワ−クがある。保健センタ−が中心となり在宅リハビリテ−ションを行う一級、となり、小リハビリテ−ション・センタ−が中心となる二級、地区病院、省リハビリテ−ション・センタ−、医科大学リハビリテ−ション局による三級に構築されている。

ネパールー18NGO(1997年現在)がCBRを運営しているが、大半はアウトリ−チ・サ−ビスである。村議会との3年の契約期間中に調査やCBRワ−カ−の訓練を行なうネパ−ル障害協会の形式や障害枠を取り払ったバクタプールのCBR、ネパ−ル盲人福祉協会が東京ヘレンケラ−協会の支援で教育にも力を入れているCBRなど、興味あるプロジェクトがある。

パキスタンーILOの協力で始まった農村や都市部スラムでのCBR、ユニセフの援助によるアウトリ−チ・サ−ビスなどの政府のCBRの他に、NGOによるいくつかのCBRが報告されている。

バングラデシュー80年代終わりから90年代初めにかけて始まったNGOによる、大半は視覚障害者に地域で生計を立てさせる職業援助プログラムであったCBRは発展し、その後始まった障害当事者のNGOであるBPKSやSARPVの主として身体障害者のためのCBRもうまく運営されている。

フィリピンー1985年に社会福祉開発省がILOの協力で始めたプロジェクトでは多くの成功した小規模事業例が出てきた。NORFIのバコロッドでのプロジェクトを初め、障害当事者団体を含む多くのNGOが多数のCBRの運営にあたり成功している

ブータンー保健教育省にCBRプログラムのマネージャーが任命され、その後1997年に3つの村で、CBR試行プロジェクトが始まった。

ブルネイー1988年より文化・青年・スポーツ省によって知的障害と脳性マヒ対象に小規模に実施されている。

ベトナムー児童健康保護研究所が中心となり保健省が運営するCBRは、国の政策として49省全てで普及されようとしている。医療リハビリテーションが中心となるので、身体障害者において最も著しい成果が出ている。教育訓練省は地域に根ざした教育プログラムを35省と60地区で開始した。

マレーシアー国家統一・社会開発省が全国に広めるCBRはマレー語でPDKと呼ばれ、NGOのCBRとはアプローチが異なる。1997年には質的向上を目標に国家CBR調整委員会が設立された。PDKは早期療育プログラムを実施する公立センターによるサービスと見られている。NGOも小規模ながら多くのCBRを運営している。

ミャンマーWHOとUNDPの共同援助で始まり、ワールド・ビジョンが支援した保健省のCBRは継続されている。

モルディブー1983−88年まで南部で障害児のための地域リハビリテ−ション・サ−ビスが行われたが、継続はされなかった。

モンゴルー保健社会防衛省はイタリアのNGOであるAIFOの支援でCBR委員会が国、県レベルで作られ、首都および4地域の4郡で実施されている。

ラオスー1983年より地域でのリハビリテーションの拠点づくりを中心とする特別なアプローチを取り、ほぼ全国に広がっている。最近では職業教育に力が入れられている。

参考文献
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(2000年7月15日)